鈍感なくらいが生きやすいというけれど

常に省エネモードで体力がなくアルバイトを含めシフト制の仕事しかしたことがないから連勤によわい。程良い休暇の間隔に生かされながら、生活リズムを確立しやすい固定勤務に憧れる。

シフトを確認して時間通りに出勤、仕事、休憩、仕事。上りが近づいてきた頃ふとパソコンを開くとエラーの表示。見るとその日わたしはシステム上休日になっていた。慌てて上司に相談するも、上司も上司でなにが起こっているのかわからないという。当日の業務スケジュールのなかには当然のようにわたしも組み込まれていたので間違って出勤した可能性はゼロ。「自分で休みいじった?」「もしいじってたらわざわざ出勤してきませんよ」。結局原因もわからぬまま休日出勤ということになり、帳尻合わせのために休日が一日なくなった。

 

休日出勤、つまり残業になるからはやく帰ってくれと中途半端なまま退勤。残業代が出るとはいえなんだかなあと思いながらデパートに寄って、霧雨を浴びながら家路を辿った。最近はばたばたしていて家のことがおろそかになっていたのでちょうどいいか、と台所を片づけ、浴槽を磨いて洗濯機のスイッチを入れる。めんどうだから一枚でも多く洗ってしまおうと着ていたものもすべて放りこんで、さむいさむいと湯がたまるのを待つ馬鹿なわたしを愛して。

 

少しまえ、ひとりふらっと近所の居酒屋に入った。開店したばかりで店内はがらがらなのに通されたのはなぜか家族連れの隣の席。なにかを試されているのだろうか。わたしの心はそんなことでは折れないぞ、という気持ちでお酒を二杯飲み、締めには梅茶漬けを頼んだ。実は特別お酒が飲みたかったわけでもメイン料理が食べたかったわけでもなく、お茶漬けだけが目当てだったのでした。店内のBGMは一等に好きなアーティストの曲で、しかも出掛ける直前に聴いていたものとおなじだから運命を感じた。安っぽくて単純な動機、だけど人はそういう些細なことに生かされていたりするの。かもね。

 

すっかり夜に染まった帰り道、鼻歌を歌いながらあるく。好きではない、むしろ苦手だった曲をつい口遊んでしまうのは何かの番組で好きな俳優が歌っていたからで間違いない。

桃井かおりがしみじみとした表情と軽やかな口調で「どんどん自由になっていく」と言う、ブランド化粧品のCMが好きだ。

 

誰も知らない・誰のことも知らない町に越してきて、人影を気にせず歌いながら歩くようになった。退屈で心が死にそうなこの町ともあと一ヵ月ほどでおさらばだ。解放される、その事実だけで枯れた心が潤ってくる。しがらみも制約も他人の顔色も暗黙のルールもつまらない固定概念も、ぴょーんと軽く飛び越えて生きる。蹴散らすほどのものでもないの。ただかるうく、ぴょーんと。

身軽でいたいよいつだって、大切なものだけ抱えてさ。